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グローバル生産効率1.5倍!タイ拠点が成し遂げた「自律型組織」への改革
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グローバル生産効率1.5倍!タイ拠点が成し遂げた「自律型組織」への改革
絶え間ない改善が求められる製造現場において、ある海外拠点が大きな進化を遂げました。アーケムの海外グループ会社の一つ、「アーケム(タイ)カンパニーリミテッド(以下、ACT)」です。ACTは2024年から2025年の1年間で、製造工程の「質」を徹底的に改善。品質の作り込みを強化し、生産効率を1.5倍に向上させるという成果をあげました。
ACTはいかにして「自ら考え、改善する」組織へと進化を遂げたのか――。その裏側にあったのは、徹底した「対話」と、小さな成功体験の連鎖でした。

|立ちはだかった「意識の壁」
―当初、現場はどのような課題を抱えていましたか?
スントーンさん:当初、現場には「数量」という計りやすい成果を重視する空気がありました。決められた業務を着実に遂行する一方で、自らの手で現状を変え、生産性や品質を向上させようとする「自律的な改善意識」までは十分に持てていなかったのです。しかし、お客様により高品質な製品を安定してお届けするためには、この状況を根本から変える必要がありました。
―現場の意識を変えるのは、簡単ではなかったと思います。
スントーンさん:そうですね。単に「生産効率を上げろ」と号令をかけるだけでは、現場の習慣は変わりません。頭では分かっていても、心が動かないからです。
だから私は、まず皆に「仕事への誇り」を高く持ってほしかった。淡々と作業をこなすだけの日々を変え、「自分たちは素晴らしいものを作っているんだ」という実感を共有したい。その想いを出発点として、改革に着手しました。
|「対話」で現場の非効率に向き合う
―改革にあたり、具体的にどのようなアプローチを行いましたか?
ラクチャイさん:まず徹底したのは、生産を阻害している要因について現場の「声」を聞くことです。生産効率が上がらない背景には、必ず理由があります。「手順が複雑でミスが起きやすい」「設備に癖があってコツがいる」など、現場のオペレーターだけが肌感覚で知っている「真因」を掘り起こす必要がありました。

エカパンさん:とはいえ、最初は現場にも「今までこのやり方でやってきた」という自負や、変化への戸惑いがありました。「機械の性能の限界だ」「設備の老朽化のせいだ」といった、自分たちの権限ではどうにもならない不満が出ることもありました。
そこで私たちマネージャー陣は現場に入り込み、「設備のせいにしても始まらない。まずは『今、私たちの手でできること』を一緒にやろう」と繰り返し伝えました。頭ごなしに否定せず、彼らの「やりにくさ」を一つひとつ取り除く。そうすることで、「自分たちの声で現場が良くなるんだ」という信頼が生まれ、徐々に「不満」が「建設的な提案」へと変わっていったのです。
ラクチャイさん: 信頼関係を築く上で、特に大切にしたのが「トラブルが起きた時」の対応です。何か問題が起きれば、私たちは必ず現場まで行き、膝を突き合わせて話し合いました。「このトラブルによって、お客様がどう困るのか」「トラブルを防ぐことで、現場スタッフにどんないい影響があるのか」、そして「どうすればトラブルを防げたのか」。
単に叱責や指示をするのではなく、これらを皆が納得できるまでとことん話し合う。そうして「品質を上げることが、一番の効率化になる」と全員が腹落ちできる結論を導き出せたからこそ、現場の行動が変わり始めたのだと思います。
―現場からの意見で、変わったことはありますか?
エカパンさん:印象的だったのは、「ある工程の担当を、5人体制から4人に減らしてはどうか」という提案が、オペレーター自身から上がってきたことです。
通常、現場は負担軽減のために増員を望むものですが、彼らは自分たちで作業動線を見直し、「お互いの待機時間をなくせば、4人の方が連携がスムーズになり、生産効率が上がる」と分析してくれたのです。すぐにテスト運用を実施したところ、生産効率が上がっただけでなく、チーム内の結束力もより強固なものとなりました。
|現場が考え、マネジメントが支える
ラクチャイさん: こうした変化を支えているのが、毎朝の「PDCAミーティング」です。役職に関係なく全員が対等に議論し、その場で「すぐやる」と決める。そして翌日にはその結果を共有し、改善の効果が出れば全員で「よくやった!」と賞賛し合うんです。小さな成功でも皆で認め合うことが、次の改善へのモチベーションになっています。
もちろん、すべてを現場任せにするわけではありません。現場の工夫だけでは解決できない時は、私たちマネジメント層が責任を持ってフォローに入ります。金型の修正や、作業工程そのものの変更など、管理者だからこそ取れる対策を駆使してボトルネックを取り除くのです。
スントーンさん: もう一つ重要だったのが、部門を超えた連携です。 私たち品質管理部門と、ラクチャイさんの製造部門、そしてエカパンさんたち現場マネージャーが常に連携を取り、「工程内ロスの発生率はどう推移しているか」「施策の効果は数字に表れているか」といったデータを緻密にモニタリングしました。 感覚だけではなく、客観的なデータをもとに全員が同じ目線で議論できたからこそ、迷うことなく正しい改善を進めることができたのだと思います。

|数字以上に得られた「現場力」
―活動の結果、どのような変化がありましたか?
ラクチャイさん: 最大の成果は、生産効率が1.5倍に向上したことです。これまでトラブル対応や製品ロスに費やしていた時間は、本来あってはならない『異常値』です。それが経営を圧迫する要因にもなっていました。今回の改善でそのマイナスを取り除き、健全な収益構造へと立て直すことができたのは大きいですね。
何より、工程が安定したことで、お客様に『ばらつきのない製品』を自信持ってお届けできるようになりました。その結果、今ではお客様から品質に関して表彰されるほど、社外からの評価も大きく向上したと実感しています。
―現場の雰囲気はいかがですか?
スントーンさん:「やらされ仕事」から「自分事」へと意識が変わったと感じています。以前はトラブルが発生すると、「とりあえず今目の前で起きている問題を解決しよう」と対症療法な考えになりがちでした。しかし今は「プロセスのどこに非効率の種があったか」をチーム全体で冷静に分析し、再発防止策を打てるようになりました。この「課題解決に向かうチームワーク」が醸成されたことが、1.5倍という数字以上の財産だと感じています。

|品質改善にゴールはない
―意識改革を成し遂げた今、ACTが次に目指す目標は何ですか?
スントーンさん:こうした改善活動に「ゴール」はありません。今の数字に満足することなく、さらなる効率化と品質向上、そしてそれを安定的に供給できる体制を追求し続けます。また、現場で培ったこの「改善の文化」を、安全や防災といったあらゆる領域へ横展開していきたいと考えています。組織全体のレベルをより高めることで、お客様、そして社会に対しても、より確かな価値を還元していきたいですね。
エカパンさん:独りよがりな改善にならないよう、今後は「社外」との対話も強化したいと考えています。お客様からのニーズという「外からの視点」と、社内で蓄積してきたナレッジという「内からの視点」。その両面からより高い品質を目指していきます。
ラクチャイさん:成果は数字として見えてきましたが、重要なのはそれを「定着」させることです。難易度に関わらず常に高い生産効率を保てるよう「標準化」を徹底する。そこまで到達できれば、真の意味での「高品質・高効率」な工場になれると確信しています。