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理想の座り心地を「確かなカタチ」へ着地させる、シートパッド設計課の仕事

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理想の座り心地を「確かなカタチ」へ着地させる、シートパッド設計課の仕事

クルマに乗っているときに人が唯一常に身体を預けているパーツ、それが「シート」です。私たちアーケムは、その座り心地の根幹を担う「シートパッド」を開発・製造しています。今回は、自動車メーカーの描く「理想」を、製造現場の「確かなカタチ」へと着地させる、「シートパッド設計課」の仕事に迫ります。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

|「理想の座り心地」を「製品仕様」に落とし込む

―はじめに、シート設計課とはどのような役割を担う部署なのでしょうか?

私たちの仕事を一言で言うと、自動車メーカー様が描く「理想の座り心地」を、工場で量産可能な「製品仕様」に落とし込む仕事です。

案件は「こんなデザインで、こんな座り心地にしたい」というお客様のご依頼をもとに始まるのですが、それをそのまま形にしようとすると、ウレタンが成形できなかったり、強度が足りなかったりと、物理的な壁に直面してしまいます。

そこで、私たちの出番です。まずお客様からいただいたデータを元に乗り心地を評価し、それを具体的な「物性の特性」へと落とし込みます。そしてお客様や評価担当メンバーと議論を重ね、最適な「物性値」を確定させていくのです。

同時に、量産工程を見据えた技術検証も徹底します。「この形状だとうまく形を再現できずに品質が落ちるリスクがある」「ここの厚みを変えれば解決できる」など、デザインレビューを繰り返します。材料開発、資材・金型メーカー、そして製造現場。あらゆるステークホルダーのハブとなり、製品としての「最適解」を導き出すのが私たちの役割です。

 

―関係者が多岐にわたるんですね。

はい。入社当初は関係者の多さに圧倒され、「誰に、どのタイミングで、何を相談すべきか」さえ分からず右往左往していました。お客様の理想と、実際の製造における制約の板挟みになり、「伝書鳩」のように双方の意見を運ぶだけで精一杯だった時期もあります。

しかし、幾多のプロジェクトを経験する中で気づいたんです。設計者が単なる調整役であっては、良い製品は生まれない。大切なのは、リスクを予見し、そのうえで実現可能な代案を提案できるプロとしての知見を持つことです。

 

各ステークホルダーの意見や利害を一つにまとめ上げ、苦労して形にした製品が初めてラインを流れた時、そしてそのシートを載せた新型車が街を走る姿を見た時の達成感は今でも覚えています。

 

 

 

|「データ上の100点」より、「現場・現物」を信じる

―朴さんが仕事をする上で、大切にしていることはありますか?

会社全体の文化としてある、「現場現物」です。これが設計品質を高める近道だと信じています。最近はシミュレーション技術も進化し、PCの画面上でかなりのことが完結するように思われがちです。しかし、データ上では完璧な数値が出ていても、いざ金型にウレタンを注入してみると予想外の動きをする、ということは少なくありません。

 

―データだけですべてが判断できるわけではないんですね。

はい、ウレタンは非常に繊細です。工場の気温が1度変わるだけで、あるいはその日の湿度が少し高いだけで、発泡の仕方は微妙に変化します。

だから私は、画面の前で数時間悩むくらいなら、迷わず現場へ足を運びます。自分の目で金型を見て、手でウレタンの感触を確かめ、現場のオペレーターの声を聞く。そこでしか得られない「一次情報」に触れることでしか、本質的な解決策は見えないと考えています。

 

 

|アーケムだからできる「最後まで責任を持つ」設計

―お客様先まで直接赴くことも多いと伺いました。

はい。自社内で「完璧だ」と思えるサンプルが完成しても、実際にお客様の車両に組み付けてみると、わずかな隙間が生じたり、期待していたホールド感と微妙にズレたりすることがあります。

そんな時も、データ上のやり取りで済ませるのではなく、直接お客様の元へ向かいます。現物を目の前にして、お客様と一緒に「どこが要件を満たしていないのか」「どう改善すれば理想に近づくのか」を、膝を突き合わせて議論します。自分の目で確かめなければ、次の一手を確信持って打つことができないからです。

 

―前職も設計職だったそうですが、この「現場・現物」のスタイルはアーケム特有ですか?

そうですね。一般的に大きな組織では分業化が進んでおり、私も以前は「図面を描くまでが仕事」で、その後の量産準備は他部署にお任せというスタイルでした。

しかし、アーケムの設計課の守備範囲は非常に広範です。図面を引くのはもちろん、試作を経て量産ラインに乗り、製品が世に送り出される瞬間まで、すべてに責任を持ちます。

自分が設計したものが、最終的にどんな形でお客様に届くのか。その全行程を見届けられるのは、技術者として大きな醍醐味です。これは設計部門に限ったことではありません。量産に携わる全ての関係者が自らお客様のもとへ足を運び、一気通貫でプロジェクトを完遂します。そうして多くの関係者と苦労を分かち合い、一つの製品を作り上げる過程で、社内外の絆が深まっていくことに喜びを感じています。

 

 

 

|EV時代の難題。「薄くて快適」への挑戦

―自動車業界はいま、EV(電気自動車)や自動運転など、大きな転換期を迎えています。設計への影響はいかがでしょうか?

まさに大きな変化の渦中にいると感じています。特にEVにおいては、走行距離を伸ばすために床下へ大型バッテリーを搭載する必要があります。その結果、限られた車内空間を少しでも広く確保するため、車両全体の設計において、シートには「極限までの薄肉化」が求められるようになりました。

もちろん、「薄くなったから座り心地が損なわれた」という言い訳は通用しません。薄くしても底付き感がなく、長距離運転しても疲れない快適さを維持すること。そして、衝突時の安全性を担保すること。お客様が求める「薄さ」という制約の中で、この相反する要素を当社の技術で両立させることは、私たちにとって非常に大きな挑戦です。

その挑戦に対し、私たちは材料開発チームと一丸となって、これまでにない高弾性素材の採用や、裏面構造の工夫による物性コントロールで応えています。難題を一つひとつクリアし、未来のクルマの価値をシートという側面から作り上げている。今、そんな確かな実感があります。

 

 

|「誇り」を持って、世界中のあらゆる場面に快適さを

―最後に、今後の展望を教えてください。

シートパッドは、クルマが完成してしまえば誰の目にも触れません。購入されたお客様が「このシートのウレタンはアーケム製だ」と意識することも、おそらくないでしょう。

ですが、私はそれでいいと思っています。長いドライブの末に、運転者や同乗者が疲れを感じずに目的地に到着できたなら、その裏には必ず私たちの緻密な計算と、現場の執念が隠れています。シートの厚みや形は変わっても、人がクルマに乗る限り、シートがなくなることはありません。

「ドライバーの背中を、私たちが一番近くで守っている」

その自負を胸に、今後は国内に留まらず、海外拠点の支援や新規メーカー様とのプロジェクトにも積極的に挑んでいきたい。アーケムが大切にする「実態をつかむ」技術力を世界中のシートに広げ、あらゆる移動の瞬間に、目に見えない「最高の快適さ」を届けていくこと。それが、私のこれからの挑戦です。